「ヤンマ」とは大型トンボの古称である。そこに「鬼(オニ)」が冠された理由は、その規格外の巨体と迫力に満ちた外見にある。伝承において鬼は、虎の皮の腰巻きをつけ、二本の角を生やした姿で描かれてきた。オニヤンマの腹部に刻まれた黒と黄色の鮮烈な縞模様は、まさに虎斑(トラフ)そのものだ。さらに、頭部の大部分を占める巨大な緑色の複眼が放つ異彩と鋭い大顎は、見る者に「鬼の面」を連想させるのに十分だった。
言葉の語源・由来を探る研究者によれば、この命名は単なる外見の形容にとどまらない。民俗学的な観点からも、田畑の害虫を容赦なく捕食する圧倒的な強さが、畏怖と感謝の念を込めて「鬼」と例えられたと考えられている。恐怖と尊敬が表裏一体となった日本人の自然観が、この一つの名前に凝縮されているのだ。