吉行淳之介を取り巻く人間のドラマは、妻や愛人だけに留まらない。朝の連続テレビ小説のモデルとしても有名な美容師の母・吉行あぐり、そして女優として活躍した妹・吉行和子という、強烈な個性を持つ家族の存在があった。NHKなどを通じて広く知られた吉行家の逸話は、まさに昭和から平成を駆け抜けた文化的一家の異彩を物語っている。
母・あぐりは長男である淳之介の破天荒な女性関係を静かに見守り、妹の和子もまた兄の屈折した愛情表現を冷静に観察していた。家族全員が自立した表現者であり、個々の尊厳を重んじる家庭環境だったからこそ、文枝との婚姻関係が崩壊しつつも維持され続けたとも考えられる。血縁という強い結びつきと、冷めた個の自立。この奇妙なファミリーダイナミクスが、作家・吉行淳之介の揺るぎない孤独を育んだのかもしれない。