「ラーメンたべたい」というフレーズの元祖にして最高峰とされるのが、1984年にリリースされた矢野顕子の『ラーメンたべたい』です。アルバム『オーエス オーエス』に収録され、後にシングルカットもされた本作は、当時としては革新的だったシンセサイザー主体のニューウェイヴ・アレンジ(坂本龍一プロデュース)に乗せて歌われます。
この楽曲の歌詞を紐解くと、単なるグルメ賛歌ではないことがよく分かります。歌詞の中で描かれるのは、以下のような切実な人間の生々しい心理描写です。
- 夜中の切迫した孤独:「ひとりでたべたい」「だれもいないところでたべたい」と繰り返されるフレーズ
- 日常の鬱屈からのエスケープ:「男もつらいけど 女もつらいのよ」という、当時のジェンダー観や社会生活における疲労感の吐露
- スープへの執着:具材の豪華さではなく、温かい汁と麺が胃袋に染み渡る瞬間の救済を求める感覚
当時のインタビューや本人の手記によると、この曲が生まれた背景には、過密なレコーディングスケジュールや育児、日々の人間関係のプレッシャーの中で、夜中にふと「ただ一杯の温かいラーメンを誰にも気兼ねせず一人で啜りたい」という極限の感情があったと語られています。飾らない人間の本音をポップミュージックの形に昇華したからこそ、40年以上が経過した現在でも色褪せないリアリティを放っています。