ミステリー小説やサスペンスの映画化において、脚本家が最も頭を悩ませるのが「叙述トリックの処理」と「上映時間の制約」です。活字ならではの先入観を利用した仕掛けは、そのままカメラで撮影すると一瞬でタネが割れてしまうためです。
たとえば、乾くるみの傑作小説『イニシエーション・ラブ』の映画化では、「映像化不可能なラスト2行」をどう処理するかが大きな議論を呼びました。堤幸彦監督は、映画ならではの時間軸のギミックと巧みなカメラワークによって、原作既読者すら唸らせる「映像版どんでん返し」を構築しました。
また、実写化に際して物語の結末そのものが変更されるケースも少なくありません。映画版では観客に提示するメッセージをより明確にするため、あるいは劇場の巨大スクリーンで最大の感情の波を起こすために、あえてビターエンドを救いのある幕引きへとシフトさせたり、逆に凄惨さを際立たせる改変が施されます。
原作小説を読んだ読者にとって、映画版における登場人物の動機の変化やカットされた伏線、追加されたオリジナルシーンの意図を考察することこそ、メディアミックス鑑賞の醍醐味です。