ネット上で拡散される動画では、洗剤を投入して数時間放置し、シャワーで流すだけで新品同様の輝きを取り戻す様子が描かれます。しかし、ハウスクリーニングの現場技術者や洗剤メーカーの開発データが示す現実は、よりシビアです。
浴室に発生する汚れは単一ではありません。人間の体から出る皮脂汚れや湯垢(酸性)、水道水に含まれるミネラルが結晶化した金属石鹸・水垢(アルカリ性)、そして湿気を好む黒カビ・酵母菌(微生物)が複雑にミルフィーユ状に堆積しています。
大手トイレタリーメーカーの成分分析データによると、市販の「まるごと洗浄剤」や酸素系漂白剤(過炭酸ナトリウム)はpH10〜11前後の弱アルカリ性〜アルカリ性に調整されています。そのため、酸性の皮脂汚れや石鹸カス、軽度のバイオフィルム(ヌメリ)は化学的に加水分解され、こすらずとも綺麗に溶解します。一方で、鏡や水栓金具に固着した「ウロコ状の水垢」はアルカリ性であるため、泡洗浄液を浸透させても中和できず、完全に残留します。「すべてが魔法のように消える」という言説は、汚れの化学的性質を無視した誇大表現である点に注意が必要です。