現代の医療・腫瘍内科学の観点から見ても、腹膜癌は卵巣癌と類似した病態を示し、腹膜播種(がん細胞がお腹の中に散らばる状態)を起こしやすいため、外科的切除と化学療法の組み合わせによる長期管理が極めて難しい疾患の一つです。
田部井さんの主治医たちは、登山への情熱が彼女の生命維持力そのものを底上げしている事実に驚嘆しました。激しい抗がん剤治療を受けながら4年以上の長きにわたり高いQOL(生活の質)を維持し、国内外の山岳活動を継続できた背景には、登山家として生涯をかけて培った強靭な心肺機能と、極限状態で培われた精神的なレジリエンス(回復力)がありました。
抗がん剤の点滴を受けながら指先が痺れても、杖を頼りに一歩一歩自らの足で大地を踏みしめる。その姿勢は、難病と向き合う多くの患者や医療従事者に対しても「がんと共生しながら自己の人生を全うする」という現代医療における大きな希望のモデルケースを示しました。