現代の本格手打ち蕎麦専門店を訪れると、お品書きの先頭に「ざる」ではなく「せいろ」と記されている場面によく出会います。職人たちが頑なに「せいろ」という器を選ぶのには、明確な機能的理由があります。
手打ちの十割蕎麦や粗挽き蕎麦は、茹で上げた直後から刻一刻と水分バランスが変化します。木製のせいろに竹すのこを組み合わせた器は、底に溜まる余分な水滴を逃しつつ、木枠が適度な湿度を保ち、蕎麦が乾燥して固まるのを防ぐという絶妙な湿度調整機能を持っています。
また、海苔を乗せずに「せいろ」単体で供されるのは、蕎麦粉本来の甘み、穀物特有の清涼な香り、そして手打ちならではのエッジの立った喉越しを純粋に味わってほしいという職人のプライドの表れでもあります。