主演を務める役所広司の佇まいは、まさに圧巻の一言に尽きる。台詞の少なさを補うかのように、わずかな視線の揺らぎや背中の丸みで、主人公が背負う数十年の後悔を語り尽くす。撮影現場において、名匠・是枝裕和監督が徹底したのは「過剰な説明の排除」だったという。
役所に対して監督が求めたのは、演じることではなく「ただそこに存在し、風の音を聞くこと」。時に数分間にも及ぶ長回しの中で、沈黙が言葉以上の雄弁さを持って観客に迫る。是枝監督が長年培ってきたドキュメンタリー的視線と、役所の圧倒的な人間的引力がぶつかり合い、従来のヒューマンドラマの枠組みを根底から刷新する緊迫感を生み出した。