『黒い十人の女』の最大の醍醐味は、クライマックスで明かされる鮮やかな逆転劇にある。10人の愛人たちが周到に準備したはずの毒殺計画――だが、そこには風松吉自身と本妻による、さらに一枚上手の謀略が仕組まれていた。男を消し去ることで平穏を取り戻そうとした女たちの目論見は、思わぬ形で裏切られることになる。
実は、殺害計画そのものが男の偽装工作であり、周到な狂言だったという展開は、観る者を呆然とさせる。自らの命を狙う愛人たちの動きを察知した風松吉は、妻と共謀して「死んだふり」を演じることで、すべての愛人関係を一気に清算しようと企てたのだ。銃声、偽の毒薬、そして冷めきった夫婦の沈黙。男の身勝手な生存戦略と、それに気づいた女たちが下す最終決断のコントラストは、人間のエゴイズムを冷酷にあぶり出す。
しかし、物語は単なる男の逃げ切りでは終わらない。自らを欺いた男に対して女たちが最後に下す「完全な無視」という制裁。愛の反対は憎しみではなく無関心であるという心理的真理が、静寂のラストシーンに見事に結実している。