半藤一利との半世紀以上に及ぶ結婚生活は、まさに知性とユーモアが織りなす二人三脚の旅路であった。株式会社文藝春秋の辣腕編集者として多忙を極め、のちに『日本のいちばん長い日』をはじめとする昭和史ノンフィクションの金字塔を打ち立てた一利。彼の執筆活動を陰で支え続けたのは、他ならぬ末利子の包容力と鋭い直感である。
歴史の暗部に切り込み、膨大な史料と格闘する夫の書斎から聞こえる原稿用紙の擦れる音。息詰まる執筆作業の合間に交わされるのは、市井の暮らしに根ざした何気ない雑談や、猫をめぐる他愛のないやり取りだったという。過酷な昭和の記憶を掘り起こす夫の精神的支柱となり、知の伴走者として同じ景色を見つめ続けた二人の絆は、単なる夫婦の情愛を超えた深い同志愛に満ちていた。