スタンドに飛び込んだボールの所有権は、一体誰のものなのか。米国法における判例「ポポフ対ハヤシ事件」が示す原則は明快だ。スタンドに入ったボールは無主物となり、完全な支配(キャッチ)を確立した者に所有権が移る。しかし、現実のスタンドで起きるスクープの裏側は、それほど単純ではない。
争奪戦の渦中では、腕を掴まれた、強奪されたと主張するファン同士の激しい小競り合いが日常茶飯事だ。大谷の記念球を巡っても、ボールを手にしたファンの背後で「先に自分が確保しかけていた」と主張する別の観客が訴訟を起こす事態へと発展した。スタンドの乱闘は瞬時に警備員によって鎮圧され、ボールを保持した人物は球場の地下通路、通称「認証室」へと厳重にエスコートされる。
球団側は即座にサイン入りバットやユニフォーム、選手との面会といった破格の条件を提示し、ボールの返還を交渉する。だが、オークションに出せば数億円になる現実を前に、その場で返還に応じるファンは激減した。一瞬の反射神経が、平穏な一般市民を一夜にして億万長者へと変貌させる。