猗窩座のかっこよさを語る上で避けて通れないのが、単行本18巻および劇場版『無限城編』で明かされる人間時代の記憶、すなわち「狛治(はくじ)」としての壮絶な生涯です。
江戸時代、病弱な父親を救うために盗みを繰り返し、罪人の刺青を腕に刻まれ続けた狛治。しかし、自らの罪で息子が前科者になることに耐えかねた父親は首を吊って自死を選びます。「真っ当に生きろ」という遺言を遺されたものの、帰る場所を失い荒れ狂っていた狛治を救ったのが、武術道場の師範・慶蔵(けいぞう)と、その病弱な娘・恋雪(こゆき)でした。
夜通しの看病や道場での修練を通じて、狛治は「誰かを守るために強くなる」という本当の強さの意義を知ります。恋雪の体調が回復し、慶蔵から道場の継承と恋雪との婚姻を打診された夜、狛治は心からの誓いを立てました。
「はい、俺は誰よりも強くなって、一生あなたを守ります」
花火を見上げながら交わしたこの約束は、狛治にとって生まれて初めて手に入れた幸福の光でした。しかしその幸福は、近隣の剣術道場の嫉妬による「井戸への毒殺」という卑劣極まりない凶行によって、一瞬にして奪い去られます。父の墓前に祝言の報告へ向かっていた留守中の出来事でした。
最愛の婚約者と恩師を毒殺された狛治は絶望の底で復讐の鬼と化し、剣術道場へ単身乗り込んで門下生67名を素手で惨殺。その異常な惨劇を聞きつけて現れた鬼舞辻無惨によって記憶を破壊され、鬼「猗窩座」へと変貌させられたのです。