日本国内において「木へんに工の漢字」が大きな脚光を浴びた背景には、賀来ゆうじ氏による人気漫画・アニメ『地獄楽』の存在があります。作中に登場する中心的な「くのいち」キャラクター、「杠(ゆずりは)」の名前にこの文字が採用されたことで、若年層から活字ファンまで一気に認知が広がりました。
地獄楽杠の由来を深掘りすると、物語の世界観とキャラクター造形に密接に結びついています。原作者の卓越したネーミングセンスが光る点ですが、植物のユズリハは「春に新葉が出た後、前年の古い葉が一斉に席を譲るように落葉する」という特徴を持っています。この生態から「命の継承」「親から子への譲渡」「代々の繁栄」の象徴とされ、古来より正月の祝い飾りなどに重用されてきました。過酷な死罪人の島を生き抜く、したたかで妖艶な忍びの美学を投影した命名と読み解くことができます。
さらに歴史を遡ると、杠苗字のルーツは九州地方に色濃く残されています。名字由来の研究データや戸籍関連調査によると、「杠(ゆずりは)」姓は全国におよそ2,000人から3,000人前後存在する希少姓ですが、その約6割以上が佐賀県や福岡県筑後地方に集中しています。肥前国(現在の佐賀県周辺)の武家や郷士にルーツを持ち、神社の神事や神木としてのユズリハ信仰、あるいは小橋(杠)の架かる要所を管理していた役職に由来すると伝えられています。難読でありながら、極めて由緒ある伝統的な家柄を示す文字として受け継がれてきた歴史があります。