訪日外国人観光客が日本の食文化に触れる際、最も衝撃を受けるメニューの一つが「鳥刺し(鶏刺し・とりわさ)」です。欧米では「生の鶏肉にはサルモネラ菌やカンピロバクターが潜んでおり、中心部まで完全に加熱(74℃以上)しなければ決して口にしてはならない」という衛生観念が徹底されています。そのため、英語圏のメディアやコミュニティでは「Raw Chicken in Japan: The Dish That Shouldn't Exist(存在してはならない日本の料理)」といった見出しで特集されるケースが後を絶ちません。
では、なぜ日本において鶏肉を生で食す文化が成立したのでしょうか。その起源は主に鹿児島県や宮崎県などの南九州地方にあります。薩摩藩の時代、士気高揚や祝い事の席で闘鶏が行われ、負けた鶏をその場で捌いて刺身やタタキにして食した「地鶏の刺身文化」が民間へと定着していきました。
日本人の「鮮度を尊び素材そのものを生で味わう」という刺身文化(Sashimi Culture)の延長線上に鳥刺しが位置づけられた結果、現代でも鹿児島・宮崎を中心とする地域ではスーパーマーケットの鮮肉コーナーに日常的に鳥刺しが並ぶほど、根強い食習慣として生き続けています。