物語終盤の無限城編において、伊之助の出生の秘密は上弦の弐・童磨との対決によって残酷かつ美しく白日の下に晒されます。母・嘴平琴葉の存在は、伊之助というキャラクターの精神的根幹を語る上で欠かせないピースです。
琴葉は非常に美しい女性でしたが、夫からの家庭内暴力(DV)と姑からの虐待に耐えかね、当時まだ赤ん坊だった伊之助を連れて裸足で家を飛び出しました。逃げ込んだ先が童磨の主宰するカルト宗教「万世極楽教」でした。童磨は琴葉の美しさと純粋さを気に入り、殺さずに手元に置いていましたが、信者を喰らう現場を目撃されたことで事態は急変します。
童磨の追撃から逃れられないと悟った琴葉は、崖の上から「ごめんね伊之助…守ってあげられなくてごめんね…でも生きて、お願い…!」と泣きながら伊之助を川へ落としました。童磨はこの行為を「愚かな無駄死に」と嘲笑し、琴葉を喰い殺したことを自慢げに伊之助へ語り聞かせます。
【プロの結論】母性愛と愛着形成の視点から読み解く伊之助の無意識
心理学における「愛着理論(アタッチメント理論)」の観点から分析すると、伊之助が山奥で動物として育ちながらも、なぜ他者への共感や仲間への愛情を獲得できたのかが極めて論理的に説明できます。
幼少期に親から十分な愛情を受けられなかった子どもは、情緒的な発達に重い影を落とすことが一般的です。しかし伊之助の場合、乳児期の極めて短い期間ではあったものの、母・琴葉から「絶対的な全肯定の愛」と命がけの加護を受けていました。琴葉がよく歌っていた「ゆびきりげんまん」の童謡の記憶や、母の温もりはおぼろげながら伊之助の無意識下に刻み込まれていたのです。
炭治郎から優しく接された際に伊之助の周囲に舞い散る「ほわほわ」とした感覚は、まさに幼少期に封印されていた母からの無条件の愛の記憶のフラッシュバックでした。伊之助の粗暴さは過酷な自然界で生き抜くための防衛機制であり、その魂の核には常に「愛された記憶」が息づいていたと言えます。