教科書や参考書に記載されている2直線のなす角の公式を見たとき、誰もが一度は「なぜ公式全体に絶対値がついているのか」と疑問を抱きます。この絶対値をつける決定的な理由を曖昧にしたまま暗記に頼っていると、応用問題で「なす角が $120^\circ$ になる条件を求めよ」と問われた瞬間に思考が停止してしまいます。
数学における「2直線のなす角」には、厳密な幾何学的定義が存在します。平面上で2本の直線が1点で交わるとき、その交点には対頂角を含めて合計4つの角(隣り合う2組の角)が生まれます。このとき一方が角 $\theta$ であれば、もう一方は必ず補角である $180^\circ - \theta$ となります。特に断りがない限り、数学では小さい方の角(鋭角または直角、すなわち $0^\circ \le \theta \le 90^\circ$)を「2直線のなす角」と定義するという絶対的な取り決めが存在します。
三角関数の性質を振り返ると、角度 $\theta$ が鋭角($0^\circ \le \theta \le 90^\circ$)の範囲にあるとき、$\tan\theta \ge 0$ かつ $\cos\theta \ge 0$ でなければなりません。仮に加法定理や内積の計算結果が負の値になった場合、それは2直線が形成する「鈍角側($90^\circ < \theta < 180^\circ$)」の数値を算出していることを意味します。そこで、2直線のなす鋭角の条件を自動的に満たし、強制的につねに正の値を返して鋭角側の角度を導出するために、あらかじめ分子全体や計算式全体に絶対値記号が装着されているのです。
裏を返せば、問題文で「2直線のなす鈍角を求めよ」と指定された場合や、直線に向き(矢印)が定義された有向直線・ベクトルのなす角を問われている場合には、安易に絶対値をつけてはならないという点が、難関私立大や国公立2次試験で最も警戒すべき落とし穴となります。