このフレーズがこれほどまでに受け入れられた背景には、現代社会特有の心理的な要因が存在する。まず挙げられるのは、「情報過多による認知の歪み」だ。私たちは毎日、戦争、災害、事件、事故といったネガティブなニュースに絶えずさらされている。この状態が続くと、脳は「世界は危険で満ちている」というバイアスを強め、現実よりも悲観的な認識を持つようになる。
次に、「相対的剥奪感」の増大だ。SNSで他者の成功や幸せそうな姿を目の当たりにすることで、自分だけが取り残されているという感覚が強まる。このフレーズは、そうした「自分だけがうまくいっていない」という孤独感を、「いや、みんなもう終わっているんだ」という形で逆転させる、一種の心理的防衛機制として機能する。
さらに、「集合的トラウマ」の影響も無視できない。東日本大震災やコロナ禍といった、社会全体を揺るがす出来事は、人々の根底にある安全神話を破壊した。「もうみんな殺されてる」という言葉は、そうしたトラウマを言語化し、共有するための、ある種の儀式的な側面を持っているのかもしれない。
若者文化とカウンターカルチャーとしての側面
このフレーズは、特に10代から20代の若者の間で強い支持を得ている。彼らにとって、この言葉は既存の価値観や社会システムに対する反抗のシンボルでもある。「真面目に生きても報われない」「努力しても意味がない」という諦念を、皮肉を込めて表現する手段として、このフレーズは完璧にフィットした。
また、このフレーズを使うことで、同じ感覚を持つ者同士が瞬時に連帯できるという側面もある。それは、言葉にできない不安や不満を、たった一言で共有できる、強力なコミュニケーションツールなのだ。この点において、「もうみんな殺されてる」は、単なるネットスラングを超えた、現代のカウンターカルチャーの一形態と言える。