本作を語る上で、誰もが避けて通れないのが「階段落ち」のクライマックスシーンだ。ヤスが命をかけて挑むあの数分間は、日本映画史に残る名場面である。だが、この映画の本質は、そのアクションの派手さだけにあるのではない。
本当に心を揺さぶるのは、階段から落ちる男を待つ小夏の表情、そして階段の下で繰り広げられる人間たちのエゴと愛のぶつかり合いだ。狂気と隣り合わせの映画作りに人生を捧げた者たちの悲哀が、松坂慶子の瞳を通して見事に表現されている。単なる見世物ではなく、極限状態における人間の尊厳を描いているからこそ、この作品は古典としての地位を失わない。