『緑響く』と並び称される傑作『白馬の森』では、舞台は鬱蒼とした白樺の原生林へと移る。立ち並ぶ白い樹幹のあいだに佇む白馬は、まるで森の精霊そのもののように神聖な気配を漂わせている。
伝統的な日本画の手法を踏襲しながらも、西洋の象徴主義やロマン主義の深層を巧みに融合させたこの構図は、風景画の概念を根本から刷新した。木々の垂直線が作り出す厳格なリズムと、馬の柔らかな曲線が見事な調和を生み出し、視覚的な快感を超えた瞑想の空間を創出している。
絵の具を丹念に塗り重ね、削り、再び重ねるという気の遠くなるようなプロセスを通じて定着されたマチエール(画肌)には、画家の息づかいと祈りの重みがそのまま刻み込まれている。単なる自然描写にとどまらず、人間の内面宇宙を描ききった点において、この連作は日本画の金字塔と呼ぶにふさわしい。