入念に準備したにもかかわらずトラブルに見舞われた場合、その現象には必ず論理的な原因が存在します。現場で頻出する二大トラブルである「全く膨らまない」現象と「膨らみすぎた(過発酵)」状態のメカニズムを整理しておきましょう。
まず、パン発酵膨らまない理由として現場で最も多く報告されるのは以下の3点です。
- 仕込み水の温度が高すぎてイーストが死滅した:酵母菌は50℃を超えると活動が著しく低下し、60℃以上で完全に死滅します。「ぬるま湯」を用意する際に熱湯を混ぜすぎたケースが典型的です。
- 塩とイーストが直接触れ合っていた:塩には強い脱水作用と殺菌効果があります。計量ボウルの中で直接イーストと塩を長時間接触させておくと、酵母細胞が破壊されて発酵力が著しく損なわれます。
- 古いイーストの使用、または生地のこね不足:開封後長期間放置されたイーストは失活しています。また、生地のこねが足りずグルテン膜が形成されていないと、発生した炭酸ガスを包み込めずに外へ逃げてしまいます。
一方、うっかり放置してしまった場合のパン過発酵の見分け方とリカバリーも知っておく必要があります。過発酵の生地は表面に無数の細かい気泡が浮き出し、ツンとしたアルコール臭や酸っぱい匂いを放ちます。触るとベタついて弾力がなく、だらしなく横へ広がってしまうのが特徴です。
このようなパン発酵しすぎた場合の対処法として、無理にそのまま丸パンや食パンとして焼き上げようとしてはいけません。膨らむ力を使い果たしているため、硬くパサパサで酸味の強いパンになってしまいます。そこでおすすめなのが別の料理への展開です。
- 薄焼きピザへの転用:麺棒で生地を2〜3ミリの極薄に伸ばし、オリーブオイルとピザソース、好みの具材を載せて高温で一気に焼き上げます。薄焼きであればパンとしての立ち上がりを必要とせず、カリッとしたクリスピーな食感を楽しめます。
- フォカッチャへの再生:生地を平らにならして天板に広げ、指先でくぼみを作ってオリーブオイルと粗塩、ローズマリーをたっぷり振りかけます。底面をカリッと揚げ焼きのように仕上げることで、アルコール臭が心地よい風味へと昇華します。
- 次のパンの「老麺(発酵種)」として冷凍保存:過発酵の生地を小分けにしてラップに包み、冷凍庫へ保存します。次回新しいパンを仕込む際に粉量の10〜20%ほど解凍して混ぜ込むと、天然の風味改良剤として極上の旨味と熟成香を付与してくれます。