本作の表現手法を語る上で欠かせないのが、フランス映画界の巨人ジャン・ルーシュの存在だ。1950年代から60年代にかけて、伝統的な劇映画の枠組みを解体した「ヌーヴェルヴァーグ」の波の中で、彼はフィクションとドキュメンタリーの境界線を曖昧にする画期的な手法を打ち立てた。
演出とリアルの境界線を消し去る「シネマ・ヴェリテ」のアプローチは、半世紀の時を超えて本作へと脈々と受け継がれている。かつてルーシュがカメラを向けた人間のありのままの心理的葛藤と対立。単なるドキュメンタリー映画にとどまらない、現実と創作が交差するスリリングな緊張感こそが、本作の美学的なバックボーンに他ならない。