忠犬ハチ公像は単なるモニュメントではない。戦前の初代像が金属供出で失われた後、彫刻家・安藤士(あんどう・たけし)氏の手によって1948年に再建された貴重な昭和の文化財だ。東京帝国大学教授・上野英三郎博士を待ち続けた秋田犬の物語は、この彫刻の造形美とともに人々の心に刻まれてきた。
渋谷区役所の保全担当チームは、移設に伴う破損リスクを極限までゼロに抑えるため、特殊な3次元レーザースキャンによる精密データの取得を完了させた。長年の大気汚染や手のひらによる摩擦で生じたブロンズの風合い(パティナ)を損なうことなく、台座のコンクリートから安全に分離する特殊工法が採用される。
金属修復の専門家は語る。「ハチ公の合金比率は戦後の物資不足を色濃く反映しており、非常にデリケート。持ち上げ時の微細な歪みすら許されないため、美術品輸送の最高峰チームが結成されている」。