培養開始から数週間で、培地一面に苔のようなハート型の緑色組織が現れる。これが「前葉体(ぜんようたい)」だ。シダ植物のライフサイクルにおける配偶体世代であり、この表面に造精器と造卵器が形成される。
ここで多くの初心者が足踏みをする。前葉体は青々と育っているのに、いつまで経っても見慣れたビカクシダの葉(胞子体)が出てこないという現象だ。園芸学において、シダの受精には「水」の存在が不可欠である。精子が卵器まで泳ぐための水分膜がなければ、受精は決して成立しない。
日本インドアグリーン協会の関係者も指摘するように、前葉体が密集してきたタイミングで「受精を促すシャワー」を施すのが決定的な裏技となる。常温の精製水やカルキを抜いた微温湯をスプレーで霧吹きし、前葉体の表面に水たまりを作って数時間密閉する。この意図的な受精イベントを起こすことで、数週間後には前葉体の中心からツンとした角のような「胞子体」が次々と顔を出し始める。