チンストラップの歴史を語る上で外せないのが、20世紀初頭の軍用ミリタリージャケットです。代表格であるトレンチコートは、第一次世界大戦時にイギリス軍が泥濘(ぬかるみ)の塹壕(トレンチ)戦で着用するために開発されました。
寒風が吹き荒れ、雨や泥水が容赦なく降り注ぐ戦場において、首元の防護は兵士の生死を分ける重大な問題でした。襟を立ててチンストラップを固く締めることで、冷気の侵入を防ぐ強力な防風効果を発揮しただけでなく、砲弾の破片や風雨、さらには防毒マスクを装着した際の密閉性を高める役割も果たしていました。
現代のタウンユースにおいて過酷な戦場のような状況はありませんが、真冬のビル風や自転車での移動時、マフラーを持参していないシーンでも、チンストラップを締めるだけで体感温度が2〜3度以上変わるほどの保温力を発揮します。機能美として完成された軍用ディテールが、形を変えずに現代服へ受け継がれています。