『水戸黄門』の作中において、視聴者の想像力を最も掻き立てたのがかげろうお銀と飛猿の関係でした。お銀が放つ「飛猿、おやり!」という鋭い合図とともに、飛猿が巨漢の悪漢たちをなぎ倒すコンビネーションは劇中の最高潮を飾る名場面でした。ファンコミュニティや視聴者の間では長年、「二人は恋仲だったのか、それとも単なる主従関係だったのか」という議論が絶えませんでした。
作劇上の設定を紐解くと、二人のルーツは伊賀忍者の隠れ里にあります。飛猿にとってお銀は「頭領の血を引く敬うべき上忍」であり、飛猿自身はお銀を守護する責務を帯びた「最も信頼の厚い護衛・腹心」として描かれています。劇中で男女の直接的な情愛が描かれることは意図的に排除されており、甘い恋愛感情を超越した「命を預け合う強固な精神的バウンダリー(境界線)と戦友愛」こそが二人の真骨頂でした。
お銀の代名詞となった由美かおるの入浴シーンにおいても、飛猿は常に湯屋の天井裏や屋外で鋭い眼光を光らせ、外部の刺客を警戒する絶対的な防波堤として機能していました。お色気と活劇が絶妙に融合したこの演出は、飛猿の実直でストイックなキャラクター性があったからこそ、俗悪に流れず爽快なエンターテインメントとして成立していたといえます。