高井の千本杉を語る上で避けて通れないのが、昭和期に直面した枯死の危機と指定解除の歴史です。
大正期に天然記念物となった本樹ですが、昭和30年代初頭の大型台風による枝幹の折損、さらには周辺環境の変化や樹齢による生理的衰退が重なり、主幹部分の大半が枯死。その結果、1963年(昭和38年)に国指定天然記念物の指定が解除されるという苦難を味わいました。一部の歴史資料やネット上の古い書き込みでは「すでに消滅した幻の木」と誤認されているケースも少なくありません。
しかし、2026年現在の現地を訪れると、その認識は見事に覆されます。
現地には、かつての巨木を支えていた主幹の朽ちた根株が厳かに残されており、その周囲を取り囲むようにして、親木のDNAを受け継いだ無数の「ひこばえ」が逞しい若木へと成長しています。幹周数十センチメートルクラスに育った十数本の後継樹が群立し、かつての「千本杉」の面影を現代に蘇らせているのです。
参拝に訪れた巨樹愛好家からは、「失われた巨大な親木の痕跡と、そこから力強く立ち上がる若い杉たちの生命力に心を揺さぶられた」「観光地化されていないからこそ、静かな森の霊気と歴史の重みを肌で実感できる」といったリアルな声が寄せられています。派手な観光名所ではありませんが、自然界の「死と再生のサイクル」を間近で観察できる貴重な空間となっています。