ファンや棋界関係者が佐藤天彦を「貴族」と呼ぶ理由は、単なる見た目の優雅さだけにとどまりません。その根底には、幼少期から育まれた文化的な教養と、勝負の世界にあっても自己のスタイルを一切曲げない姿勢が存在します。
将棋界といえばスーツや和服が一般的ですが、佐藤天彦が身に纏うのはアン・ドゥムルメステール(Ann Demeulemeester)やディオール・オム(Dior Homme)といった、前衛的かつ構築的なヨーロッパのモードブランドです。クラシカルなロングジャケットやドレープの効いたシルクシャツを着こなし、対局場に現れる姿は、従来の将棋指しのイメージを鮮やかに覆しました。本人にとって衣服は単なる装飾ではなく、「盤上に向かうための精神的な武装であり、自らの存在証明」であると語られています。
一方で、その洗練された個性を温かく見守り育てたのが、師匠・中田功八段の存在です。中田功八段といえば「コーヤン流」三間飛車で知られる職人気質の棋士ですが、弟子の特異な才能と美意識を決して型にはめようとせず、伸び伸びと個性を開花させました。奨励会時代から佐藤天彦の自立心を尊重し、ときに親しみやすく寄り添った師弟の絆は、棋界の美談として今も広く知られています。師匠への敬意を忘れず、恩義を行動で返す礼節の正しさもまた、彼が真の意味で「気品ある貴族」と称される所以です。