あの独特な「ハヒフヘホ」や語尾の癖、そして捨てゼリフの「バイバイキン!」。これらはすべて、台本通りに読んだだけでは決して生まれなかった演出だ。中尾隆聖はアフレコ現場でマイクに向かいながら、キャラクターの呼吸やコミカルな動きに合わせてアドリブを畳み掛けた。原作者であるやなせたかしも、中尾が吹き込む命の躍動感を大絶賛し、彼の演技に合わせて原作やアニメ側のキャラクター表現が深まっていった経緯がある。
スタジオ内でのチームワークも、長寿番組を支える大きな原動力だ。主役のアンパンマンを演じる戸田恵子とは、40年近く同じマイク前で掛け合いを重ねてきた間柄である。劇中では宿敵同士として熾烈な(しかしどこか微笑ましい)バトルを繰り広げるふたりだが、収録の現場では息がぴったりと合った阿吽の呼吸を見せる。戸田が投げるまっすぐな演技に対し、中尾が斜め上からの変化球で返すことで、作品特有のテンポ感が保たれているのだ。