エンタメ大作で爪痕を残した彼女が次に向かったのは、会話の妙と緻密な心理描写が求められるストレートプレイの世界だった。気鋭の劇作家・演出家である蓬莱竜太が作・演出を手掛けたPARCO劇場プロデュース公演『スルメが丘は夜の初まり』である。
童話の登場人物たちが暮らす不思議な世界に迷い込んだ主人公を演じた吉岡は、日常と非日常のあわいを漂うような繊細なニュアンスを紡ぎ出した。蓬莱竜太の書く台詞は、登場人物の生々しい弱さや滑稽さを容赦なくえぐり出す。派手な音響や視覚効果に頼れない密室空間で、彼女は共演者との呼吸を研ぎ澄まし、言葉の裏に潜む感情の揺らぎを丁寧にすくい上げた。この舞台で証明されたのは、言葉の力だけで劇空間を支配できる確かな演技力だった。