カフェ マムーニアの階段下には、平日昼下がりであっても途切れない長い列ができる。港町・兵庫県神戸市の中心部、異国情緒と洗練されたストリートカルチャーが交差するトアロード沿いの雑居ビル2階。重厚な木製扉を押し開けると、芳醇な発酵バターの香ばしい薫りと甘やかなカスタードの気配が鼻腔を満たす。かつてモロッコ・マラケシュの老舗名門ホテル「ラ・マムーニア」の優美な世界観に着想を得て誕生したこの空間は、今や関西屈指のスイーツ激戦区において確固たる存在感を放っている。
SNSのタイムラインを幾度となく席巻してきた芸術的な断面のスイーツを求めて、元町駅や三宮駅から足早に向かう人々の視線が注がれるカフェ マムーニアのフロアは、開店の瞬間から心地よい緊張感と熱気に包まれる。単なるレトロなカフェ・喫茶店の枠に収まらず、専門パティスリーさえ凌駕するスイーツ・洋菓子の新たな地平を切り拓く同店の真価を、現地取材から余すところなく紐解いていく。
モロッコの名門ホテル「ラ・マムーニア」から受け継ぐ美学
一歩足を踏み入れれば、そこは神戸の喧騒を忘れさせる異国のオアシスだ。店名の由来となったモロッコの歴史的ラグジュアリーホテル「ラ・マムーニア」のエッセンスを散りばめた内装は、アンティーク調の家具と柔らかな間接照明が絶妙な陰影を織りなす。深みのあるグリーンやテラコッタカラーを基調としたファブリック、ゆったりと配置されたソファ席が、訪れる者の心を瞬時に解きほぐす。
居心地の良さは空間だけにとどまらない。テーブルに運ばれるカトラリーの重み、クラシックとモダンが同居する器の選定に至るまで、細部への偏執的なまでのこだわりが宿る。ただスイーツを消費する場所ではなく、空間全体を通して非日常のストーリーを体験させる劇場型の設計こそが、長年愛され続ける根源的な理由だろう。
看板スイーツ「ナポレオンパイ」と「ナポレオンクレープ」の圧倒的魔力
多くのゲストのお目当ては、圧倒的な造形美を誇る「ナポレオンパイ」だ。極限まで薄く折り込まれたパイ生地は、口に含んだ瞬間に心地よい乾いた音を立てて崩れ去る。この軽やかな食感を生み出すのは、徹底した温度管理のもとで焼き上げられる幾重もの層。そこに濃厚ながらキレのある特製ディプロマットクリームと、瑞々しいフルーツの酸味が重なり、完璧なバランスを描き出す。
一方、パイと人気を二分するのが「ナポレオンクレープ」の存在だ。手焼きにこだわるクレープ生地は、驚くほどもっちりとした弾力としなやかさを併せ持つ。生地、クリーム、果実が何層にも緻密に重ねられた断面は、まるで現代アートのような美しさ。フォークを入れる位置によって異なる食感のグラデーションが広がり、最後の一口まで驚きが途切れることはない。