『あひるの空』という作品の凄みは、序盤から意図的に「残酷な未来」を予感させるモノローグが配置されている点にある。一般的なスポーツ漫画に見られる「努力は必ず勝利で報われる」というファンタジーを、本作は徹底して拒絶してきた。
作中で示唆された最も不穏な伏線の一つが、車谷空の身体、とりわけ膝の故障に関する描写だ。物語初期のモノローグで語られる「僕の最後のインターハイは――」という述懐や、母親である車谷由夏との約束、そして九頭高バスケ部を襲った数々の悲劇。これらはすべて、手放しのハッピーエンドではなく、痛みを伴う現実的な結末を予兆させている。
横浜大栄や新城東嶺といったライバルたちとの決着、部室全焼事件による出場停止処分を乗り越えた先にある公式戦の行方など、回収されるべきドラマは山積みだ。車谷空がコート上で何を掴み、何を失うのか。作者が構想している最終章は、読者が長年抱いてきた期待を心地よく裏切るような、骨太な人間ドラマとして着地することが予想される。