佐々木が駆ったのは九九式双発軽爆撃機だった。米軍の強固な対空砲火とレーダー網が張り巡らされた海域へ単機または少数の機体で突入するのは、文字通り地獄への飛翔に等しい。それでも彼が生還し続けた背景には、圧倒的な操縦技術と冷静な戦況判断があった。
雲を巧みに利用した視界の遮蔽、敵戦闘機の追撃をかわす超低空飛行、そして「爆弾を投下した確実な手応え」を見極めて離脱する判断力。命を投げる覚悟ではなく、「生きて任務を遂行する覚悟」を持っていたからこそ、彼の感覚は最後まで研ぎ澄まされていた。死を覚悟した瞬間に思考が停止する軍事行動の欠陥を、彼はその身体で証明してみせたとも言える。