内定受諾者を最も恐怖させるのが、「入社前健康診断引っかかったら内定が取り消されるのではないか」というネット上の噂です。結論から言うと、単に血圧が高い、肝機能数値(γ-GTP)や中性脂肪が基準値をオーバーした、あるいは「要再検査」「要経過観察」と判定された程度で入社前健康診断内定取り消しが行われることは、法的に認められません。
最高裁判所の判例(大日本印刷事件・最大判昭54.7.20)が示す通り、採用内定通知によって労働契約が成立したとみなされます。内定の取消は実質的な「解雇」と同等であり、労働契約法第16条に基づき「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は無効と判断されます。
そもそも雇入時健康診断の法的な目的は、採用の合否を選別・選考することではなく、「労働者の健康状態を把握し、入社後の適正な配置や業務上の配慮を行うこと」にあります。したがって、選考目的で健診結果を利用することは厚生労働省の指針でも厳しく戒められています。
ただし、極めて例外的に内定取消が有効と判断され得るケースも存在します。例えば、トラックドライバーとして採用された者が重度の視野欠損を隠していた場合や、業務に完全に耐えられない進行性の疾患を秘匿し虚偽告知していた場合など、「職務の遂行が客観的に不可能であり、かつ回復の見込みが立たない場合」に限られます。日常的な生活習慣に関する軽微な異常値で過度に取り乱す必要は一切ありません。