彼の映画は、出演した名優たちのキャリアを根底から塗り替えてしまう。『ブラック・スワン』で狂気と純真の狭間を舞い踊ったナタリー・ポートマンは、それまでの知的なイメージを完全に脱ぎ捨て、心身を削り取った演技でアカデミー賞主演女優賞を手中に収めた。
そして『ザ・ホエール』におけるブレンダン・フレイザーの劇的な復活劇は、映画ファンを大いに沸かせた。ハリウッドの表舞台から長年遠ざかっていたフレイザーの人生の哀歓をそのまま役に重ね合わせ、痛々しいほどの優しさと後悔を表現させたアロノフスキーの手腕は見事というほかない。フレイザーがオスカーの壇上で見せた涙は、監督の冷酷なまでの演出が俳優の奥底に眠る奇跡を引き出した証だった。