なぜ塩気のある白味噌仕立ての汁に、甘い餡餅を入れるという破天荒な発想が生まれたのか。その起源を紐解く鍵は、江戸時代の讃岐高松藩が誇った特産品「讃岐三白(綿・塩・砂糖)」にある。
初代高松藩主・松平頼重の時代から奨励された製糖事業により、香川では最高級の砂糖「和三盆」が生み出された。しかし、当時砂糖は藩の財政を支える貴重な専売品であり、幕府への献上品として厳しく管理されていたため、庶民が日常的に口にすることは固く禁じられていた。
「せめて年に一度の正月くらいは、贅沢な甘い砂糖を味わいたい」――そう願った農民たちは、役人の目を欺くため、雑煮の餅の中にこっそりと砂糖入りの餡を隠し入れた。真っ白な餅で包み、さらに白味噌の汁に沈めてしまえば、外見からは餡の存在が一切わからない。支配階級の厳しい取り締まりをかいくぐる庶民の知恵と反骨精神、そして祝祭への渇望が生み出した奇跡のイノベーションこそが、あんもち雑煮の真のルーツである。