ふたりの関係において最大の挑戦であり金字塔となったのが、舞台『ハムレット』である。演劇人にとって永遠の金字塔とされる悲劇のタイトルロールを演じるにあたり、小栗が背負ったプレッシャーは想像を絶するものだった。膨大な台詞量、複雑怪奇な心理描写、そして過去の名優たちが演じてきた重圧。
幕が上がる直前まで、演出家と主演俳優の間では火花を散らすような議論と修正が繰り返された。蜷川は小栗の持つ野性味とナイーブさを絶妙に引き出し、現代の孤独を体現する全く新しい王子像を創り上げた。客席を埋め尽くした観客が目撃したのは、傷つきながらも立ち向かう一人の人間の壮絶な生き様だった。この成功によって、彼は名実ともに日本のトップ役者としての地位を確立した。