昭和遺産とも呼ぶべき大衆食堂の価値を世に知らしめた立役者のひとりが、『孤独のグルメ』の原作者として知られる久住昌之氏だ。飾らない日常食のなかに潜む美学をすくい上げる同氏の視点は、多くの人々に「名もなき名店」の尊さを気づかせた。さらに、後継者不足などで絶滅の危機に瀕した名物店に光を当てる『絶メシロード』などのドラマ作品がヒットしたことで、古い街道沿いの店は一躍、文化的な巡礼地へと変貌を遂げた。
また、日本放送協会 (NHK) の人気番組『ドキュメント72時間』が描き出すような、市井の人々が織りなす哀歓のドラマもこうした店舗の魅力を引き立てている。深夜にひとりで丼をかきこむドライバー、家族三代で通い続ける地元の常連、遠方から噂を聞きつけて訪れた若者たち。ただ空腹を満たすためだけでなく、止まり木のような安心感を求めて暖簾をくぐる人々の交差点として、カメラのレンズを通してもその人間臭い温もりが鮮明に浮かび上がってくる。