モデルや女優として唯一無二の地位を築いた小林麻美さんは、1984年にリリースしたシングル『雨音はショパンの調べ』で音楽シーンにも金字塔を打ち立てます。イタリアのミュージシャン・ガゼボによる原曲『I Like Chopin』に、親交の深かった松任谷由実さんが卓越した日本語詞を授けたこの楽曲は、オリコン週間チャートで堂々の1位を獲得する大ヒットを記録しました。
この大ヒットの裏で日本中を唸らせたのが、同時代のヒット曲とは決定的に異なるストイックなプロモーション手法でした。当時全盛期を誇っていた『ザ・ベストテン』や『夜のヒットスタジオ』といったゴールデンタイムの歌番組への出演要請を、彼女は「テレビでは歌わない」という明確な方針のもとで一切断り続けたのです。
薄暗い部屋の窓を打つ雨、モノトーンの洗練されたビジュアル、囁くようなウィスパーボイス。徹底した世界観の管理によってミステリアスな魅力は極限まで高まり、大衆に消費されることなく「伝説のアンニュイ」としてのブランドを完全に確立しました。作品のクオリティとアーティスティティを何よりも優先したその姿勢は、今なお語り継がれるプロデュースの成功例といえます。