デジタル空間には、皮膚トラブルに関する無責任かつ危険な俗説が蔓延しています。最も深刻なリスクを孕んでいるのが、「盛り上がったほくろは自分で削り取れる」という民間療法の誤解です。ネット動画や海外通販で出回る「カソーダ(重曹とひまし油の混合ペースト)」の塗布、強酸性クリーム、あるいはピンセットや爪切りで物理的に引きちぎるといった行為は、重大な医療事故に直結します。
自己処置によって病変組織を中途半端に破壊すると、激しい化学熱傷や難治性の肥厚性瘢痕(ケロイド)を残すだけでなく、万が一その盛り上がりが悪性腫瘍だった場合、腫瘍細胞を周囲組織や血流・リンパ流へと強制的に押し流し、微小転移(播種)を加速させる壊滅的な結果を招きます。また、組織の一部が熱や薬品で変性してしまうと、その後に皮膚科で切除しても病理標本が判読不能になり、正確な確定診断が永遠に下せなくなるという取り返しのつかないデメリットが生じます。
もう一つの盲点は、「黒くないからがんではない」「昔からある場所だから安全」という思い込みです。メラノーマの中には、メラニン色素をほとんど産生しない「無色素性メラノーマ」が存在し、これは一見するとピンク色や赤色の単なるイボや血管腫のように隆起して現れます。また、基底細胞がんも初期は真珠のような半透明の光沢を放つ小さな隆起に見えることがあります。「色が黒くないから大丈夫」と放置し、気づいたときには深部組織へ浸潤していたという悲劇は後を絶ちません。長年存在していた良性のほくろの直下や隣接部から新たな悪性細胞が発生する事例もあり、「昔からあった」という事実は将来の安全性を何ら保証するものではないのです。