長年にわたり、父・市川猿翁と息子・香川照之の間には埋めがたい溝が存在していた。若き日の香川が意を決して父を訪ねた際、「今の私はあなたとは関係がない」と言い渡されたエピソードはあまりにも有名だ。だが、歳月の経過とともにその確執にも変化が訪れる。香川照之が40代半ばにして市川中車を襲名し、歌舞伎界へと足を踏み入れる決断を下したのだ。
かつて自分たちのもとを去った夫の血脈へと我が子が飛び込んでいく姿に、浜木綿子の胸中には複雑な葛藤があったはずだ。しかし彼女は息子の決断を静かに受け入れ、陰ながらその背中を押し続けた。伝統と血縁、そして母子愛が交錯するドラマは、日本芸能史に残る深い余韻を残している。