公式ファンブック『鬼殺隊見聞録・弐』で明かされた断片的な証言は、ファンの間に走った衝撃波とともに瞬く間に広がった。そこには、粗暴で誰に対しても攻撃的な態度を崩さない実弥が、カナエに対してだけは「話しかけられると照れていた」「好意を持っていた」という、生々しいまでの人間味を帯びた裏設定が記されていたからだ。
実弥という男は、母を手にかけて弟を守り、数々の理不尽な死をくぐり抜けてきた。世界を憎み、鬼を滅することだけに魂を削り取っていた彼にとって、カナエの放つ柔らかな慈愛と微笑みは、一体どれほどの救いであり、同時に痛烈な眩しさだったのだろうか。カナエが実弥を「不死川くん」と呼び、穏やかに声をかけていた日常。それは鬼殺隊という修羅の道において、彼が人間としての感情を踏みとどまらせるための、かすかな錨だったに違いない。