「世間を震撼させた一番怖い宗教とは一体どれなのか」という問いに対し、宗教学者や犯罪心理学者が真っ先に挙げるのが、信者の生命を物理的に奪い去った集団です。その筆頭が、1978年に南米ガイアナの密林で起きた人民寺院(ピープルズ・テンプル)の集団自殺事件です。カリスマ的指導者ジム・ジョーンズは、人種差別撤廃や社会平等を掲げて信者を集めましたが、教団内部の実態は過酷な強制労働と暴力による支配でした。外部からの調査団が訪れた直後、追い詰められたジョーンズの命令により、シアン化合物を混入したジュースを子どもから順に飲まされ、赤ん坊を含む918人が命を落としました。現場に残された録音テープには、泣き叫ぶ子どもをあやしながら毒を飲ませる親たちの声と、ジョーンズが「これは自殺ではない。非人道的な世界への革命的抗議だ」と扇動し続ける異様な光景が記録されていました。
日本国内において戦後最大の衝撃を与えたのが、オウム真理教による一連の凶悪事件です。1995年3月20日の地下鉄サリン事件では、出勤時間帯の地下鉄車内に猛毒サリンが散布され、死者14人、負傷者6,000人以上という未曾有の無差別化学テロが実行されました。教団はこれにとどまらず、坂本堤弁護士一家殺害事件や松本サリン事件、敵対する信者のリンチ殺人など、教団維持と権力奪取のために国家転覆をも目論んでいました。特筆すべきは、実行犯の多くが東京大学や京都大学などの難関大学出身者、医師、物理学者といった、社会一般で「理性的」とみなされる最高峰の頭脳を持った若者たちだった点です。
海外ではこのほかにも、1993年にアメリカ・テキサス州で終末思想のもと銃撃戦と放火により80人以上の信者が焼死したブランチ・ダビディアン事件や、1994年から1997年にかけてスイスやカナダで信者74人が次々と変死を遂げた太陽寺院(テンプル・ソレール)事件、1997年にヘール・ボップ彗星の接近に合わせて宇宙船に魂を移すと信じ39人が一斉に命を絶ったヘヴンズ・ゲート事件など、枚挙に暇がありません。これらの教団はいずれも、当初は「愛」「調和」「魂の救済」を掲げて信者を惹きつけながら、最終的に死の結末へと突き進みました。