伝統と階級に縛られていたイギリス保守党を、実力主義と市場原理の政党へと暴力的に作り変えたことこそ、サッチャー最大の功罪だ。彼女が登場するまで、保守党はオックスフォードやケンブリッジを出た特権階級のジェントルマンたちが「パターナリズム」のもとで国を治める場だった。
彼女はその生ぬるい合意形成を一撃で粉砕した。国営企業の民営化、金融ビッグバン、公営住宅の払い下げ、そして労働組合の解体。国家が個人の人生を保障するのではなく、個人が自己責任で富を勝ち取るべきだという思想――「社会というものは存在しない。あるのは個々の男と女、そして家族だけだ」という彼女の悪名高き言葉は、この思想を端的に象徴している。
この荒療治によってイギリス経済は「英国病」と呼ばれる長期沈滞から脱却し、ロンドンは世界屈指の金融ハブへと返り咲いた。しかしその代償として、製造業の壊滅と伝統的なコミュニティの崩壊をもたらした。