歴史の糸を1300年ほど手繰り寄せる。奈良時代、聖武天皇の治世において、その妃である光明皇后がこの寺の本尊に深く祈りを捧げた記録が残る。皇后が無事に皇女(後の孝謙天皇)を出産したという伝承から、朝廷の篤い保護を受け、やがて安産祈願・子育て信仰の根本道場として民衆の心に深く根を下ろした。
本堂の奥深くに鎮座する秘仏、延命観世音菩薩。一尺八寸の小像でありながら、その放つ存在感は重厚だ。古文書によれば、国家安泰の祈願所として機能しただけでなく、子宝に恵まれない貴族から名もなき農民に至るまで、生命の誕生を願う無数の祈りを受け止めてきた。
今も境内には、無事の出産を終えた家族が奉納した無数の絵馬やお礼参りの柄杓が整然と並ぶ。底の抜けた柄杓を奉納する独特の習俗は、「水が通り抜けるように安産であるように」との願いが込められたもの。祈りの痕跡が幾重にも積み重なった空間には、観光地の華やかさとは一線を画す厳粛な信仰の体温が宿っている。