川越の蔵造りの街並みで行列を作る菓匠右門の店頭では、常に巨大な蒸籠(せいろ)から熱々の湯気が立ち上っています。あの場で食べる「いも恋」は、皮が驚くほど伸びやかで、中からホクホクのさつまいもと滑らかな餡がとろけ出します。ところが、自宅の冷凍庫から取り出して調理した途端、「硬くて噛み切れない」「パサついて粉っぽい」というトラブルに見舞われる消費者が後を絶ちません。
食品科学の観点からこの現象を紐解くと、原因はもち粉とさつまいもに含まれるデンプンの老化(β化)にあります。もち粉に含まれるアミロペクチンは、加熱されることで水分を抱え込み柔らかい「糊化(α化)」状態になりますが、冷却されると急速に水分を放出して規則正しい結晶構造へと戻り、硬直化します。つまり、冷凍状態のいも恋はデンプンが完全に眠った硬い状態にあり、これを中途半端な熱や乾燥状態で温めても、糊化が起きずに水分だけが奪われ、ゴムのような硬さへと変質してしまうのです。
「レンジで1分温めただけなのに、端のほうがプラスチックのように固まってしまった」というネット上の不満は、まさにマイクロ波による局所加熱と水分の急速蒸発が引き起こした典型例です。美味しい状態へ蘇らせるには、「十分な蒸気」と「中心部まで均一に約65℃以上の熱を届けること」が絶対条件となります。