時計の針を大きく巻き戻す必要がある。美木良介が本格的に体を壊したのは、50代を迎える直前のことだった。甲子園球児としての輝かしい過去を持ち、芸能界屈指のスポーツマンとして鳴らした肉体が、音を立てて悲鳴を上げたのだ。原因は重度の腰痛。坐骨神経痛、そして腰椎の異常だった。
症状は残酷だった。朝、布団から起き上がることすら叶わない。立っていられるのはわずか数分。靴下を履く動作ひとつに脂汗を流し、激痛で呼吸が止まりそうになる。名医と呼ばれる医師を何十人も訪ね歩き、あらゆる民間療法やレーザー治療、神経ブロック注射を試みた。しかし、一時的に痛みが引いても、数日後にはさらに凶暴な激痛が神経を締め上げる。階段の昇降すらままならず、杖をついて歩く姿は、かつてアクションで鳴らしたスターの面影を無残に削ぎ落としていた。
「このまま一生、車椅子生活になるのではないか」。当時の彼を覆っていたのは、底知れぬ絶望だったという。痛みの恐怖から活動量は落ち、筋肉は衰え、さらに腰への負担が増すという負のスパイラル。世間が抱く「病気」のイメージは、まさにこの時期の極限状態が生み出した影法師に他ならない。