ドラマ版では沢尻エリカ氏演じる「池内亜也」という架空の高校生として描かれましたが、原作ノンフィクションの著者であり実在のモデルとなったのは、愛知県豊橋市に暮らしていた木藤亜也(きとう あや)さんです。亜也さんは1962年7月に生まれ、1988年5月23日に25歳10か月の若さでその生涯を閉じました。
亜也さんの闘病の経緯は、中学3年生の春に始まりました。登校途中に転倒した際、通常であれば反射的に前に出るはずの手が出ず、顔面から道路に倒れ込んで顎を強打したことが発症の決定的な契機となります。母の潮香(しおか)氏が抱いた「なぜ手をつかずに転ぶのか」という違和感から複数の大学病院を巡り、当時は決定的な診断名が本人に伏せられたまま、残酷な病魔との長い闘いが幕を開けました。
難関として知られた愛知県立豊橋東高校に進学したものの、病状の悪化に伴って階段の上り下りや通学が困難となり、やがて養護学校(現・特別支援学校)への転校を余儀なくされます。自立した生活が失われていく過程で、亜也さんは大学ノートにペンを走らせ、自らの心情を刻み続けました。
「どうして病気はわたしを選んだのだろう」
「生きていることの意味を問い続けたい」
手記や自著に遺されたこれらの生々しい叫びは、同情を集めるための感傷ではなく、人間が極限の不条理に直面した際に見せる尊厳そのものでした。なお、ドラマ版で印象的に描かれたクラスメイト・麻生遥斗(演:錦戸亮氏)との切ない恋愛関係は、ドラマ制作時に物語の劇性を高めるために構築されたフィクションです。現実の亜也さんの周囲にも温かい同級生たちの存在はありましたが、現実はそうした甘美な救いが入る余地のないほど、日々の身体機能の喪失との過酷な戦いの連続でした。
亜也さんが手が動かなくなる直前まで書き殴った文字、そして母・潮香氏による看取りの記録は、1986年に『1リットルの涙』として出版され、初版刊行から40年近くが経った現在もなお、世界各国の言葉に翻訳されて読み継がれています。