休止期脱毛症には、経過の長さによって「急性」と「慢性」の明確な分類が存在します。この2つを混同すると、適切な治療機会を逃すリスクが生じます。
原因排除から3〜6ヶ月でピークアウトする「急性休止期脱毛症」
前述の高熱や出産、外科手術、一過性の急性ストレスなどが引き金となるケースの大半は「急性休止期脱毛症」に該当します。このタイプの特徴は、脱毛のピークが2〜3ヶ月程度で底を打ち、トリガーとなった原因が解消されていれば、特別な薬物治療を行わなくても自然治癒へと向かう点にあります。
休止期脱毛症が治るまでの期間は、原因が取り除かれてから3〜6ヶ月で異常な抜け毛が収まり始め、髪全体のボリュームが元の状態へと視覚的に戻るまでには6〜12ヶ月程度を要します。髪が1ヶ月に伸びる速度は約1センチ前後であるため、抜け毛が止まってから元の毛量感を実感できるまでには、どうしても物理的な時間が必要です。
半年以上続く「慢性休止期脱毛症」に潜む鉄欠乏性貧血とフェリチン低下
一方で、抜け毛の増加が6ヶ月以上にわたってダラダラと続き、頭皮全体のボリュームダウンや分け目の広がりが改善しない病態を「慢性休止期脱毛症」と呼びます。30〜50代の女性を中心に多く見られ、その背景には身体の奥深くに潜む慢性疾患や内科的な代謝異常が隠されているケースが珍しくありません。
現場の医師が最も警戒するのが、鉄欠乏性貧血およびフェリチンの枯渇です。健康診断の一般的な血液検査で「ヘモグロビン値(Hb)」が正常範囲内であっても、体内の貯蔵鉄を示す「血清フェリチン値」が底をついている「かくれ貧血(潜在性鉄欠乏症)」が非常に多く見られます。毛母細胞は細胞分裂のスピードが極めて速いため、酸素とエネルギーの運搬に不可欠な鉄分が不足すると、生命維持を優先する身体によって真っ先に髪への供給が遮断されてしまいます。
慢性的な抜け毛に悩む場合、皮膚科や内科で以下の項目を網羅した血液検査を受けることが鉄則です。
- 血清フェリチン(目標値:50ng/mL以上):毛髪再生の現場では、基準値内(5〜10ng/mL程度)であっても脱毛リスクが高まると指摘されており、少なくとも30〜50ng/mL以上の維持が望ましいとされています。
- 甲状腺機能検査(TSH、Free T3、Free T4):甲状腺機能低下症(橋本病など)は全身の代謝を低下させ、毛周期を休止期で固定化させてしまう代表的な内科疾患です。
- 血清亜鉛・銅:ケラチンタンパク質の合成を担う必須ミネラルの過不足を確認します。
- ビタミンD(25-OH-ビタミンD):近年の研究において、毛包幹細胞の活性維持にビタミンD受容体が深く関与していることが明らかになっています。