料理の成否を分ける決定的な分岐点は、鍋にトマトを注ぎ込む前のわずか数分間に潜んでいる。多くの初心者がやりがちな「最初からスープで煮てしまう」という選択は、実は旨味を外へ垂れ流す最大の罠だ。
必要なのは、強めの火入れによるメイラード反応。タネの表面にしっかりとした焼き色をつけ、香ばしいアミノ酸の鎧を纏わせる。肉の芯まで火を通す必要は微塵もない。外側だけをカリッと焼き固めて肉汁の流出経路を塞ぎ、フライパンに残った焦げ付き(フォンドヴォーの原型)すらヘラでこそぎ落としてソースのベースに巻き込む。この一手間を惜しまないだけで、出来上がりのソースの奥行きは三段階跳ね上がる。