避妊手術を終えて帰宅した愛犬の様子を見て、多くの飼い主が最初に直面する壁が「術後の様態変化」です。特に犬の避妊手術後元気が戻らない原因として、術後2〜3日程度の一時的な食欲不振や沈鬱は、エリザベスカラーによる強いストレスや創部の鈍痛、麻酔薬の残留による倦怠感が大半を占めます。しかし、抜糸を終えて創部が塞がった後も活力が戻らない、あるいは以前と別犬のような行動を示す場合は、より根本的な生体メカニズムに目を向ける必要があります。
動物行動学の研究において注視されているのが、犬の避妊手術後の性格変化です。「手術をすればおとなしく従順になる」という俗説がありますが、これは医学的に不正確です。性ホルモンであるエストロゲンやプロゲステロンが枯渇すると、相対的に副腎皮質由来のアンドロゲン(男性ホルモン類似物質)の影響が強まることがあります。もともと怖がりな性格や警戒心の強い気質を持っていたメス犬の場合、女性ホルモンによる精神安定作用が失われることで、恐怖性攻撃行動や警戒吠えが悪化するケースが臨床現場で確認されています。性格がおとなしくなるどころか、触られるのを極端に嫌がったり神経過敏になったりすることが、飼い主の後悔を加速させる一因です。
さらに深刻な日常的トラブルが、犬の避妊手術で太る理由と対策です。卵巣を摘出すると、食欲を適度に抑制していたエストロゲンが消失し、満腹中枢のブレーキが緩んで食欲が増進します。同時に生殖活動に使われていたエネルギー消費がなくなり、基礎代謝量は術前より20%から30%も減少します。術前と全く同じ量と種類のドッグフードを与え続ければ、確実に過剰エネルギーとなり皮下脂肪・内臓脂肪として蓄積されます。
この肥満連鎖を断ち切るには、術後直後からの厳格な食事設計が求められます。「太り始めてから減量する」のではなく、抜糸が完了した当日からフードの給餌量を20%削減する、あるいはカロリー密度を抑えた避妊去勢専用フードに即座に切り替える措置が決定的な分かれ道となります。